トンパ文字を訪ねて(続き)


〜納西(ナシ)族居住地での現地調査から〜
『言語』(大修館)1992年5月号より抜粋

トンパ文字の構造(2)

 【表意音文字】

 「表意音文字」は次の2類に分けられる。

(1)類の主な特徴は「音符」付加が施されなければならないことである。「音符」は語構成の一成分であり、「音」を示すだけではなく、意味表示の役割も果たしている。
 [例1]
は女性の生殖器官であり、付加されないと、「女性」の意味になる。
 この例でわかるように、「音符」を付加することによって、その語を他の語と区別することができる。この場合の「音符」は単に音を表わすだけのものではない。筆者はこれを「表意文字」に近い「表意音文字」と見ている。

(2)類の主な特徴を示すと、まず(1))類と同様に、「音符」を付加しなければ、他の語の意味になり、「音符」は不可欠で、語構成上の成分となっている。しかし、(1)類と異なるところは、「音符」が付加されても、それ自体は単に音を示すだけで、意味を表わさないことである。これに属する字例を少し挙げてみよう。[例2]から[例11]

【例 1】
「母親」
右上は音符。
【例 2】
「学習する」「勉強する」
右は音符。
【例 3】
「悲しむ」「寂しい」「空虚」
右は音符。
【例 4】
「速い」
右は音符。
【例 5】
「遅い」
右は音符。
【例 6】
「甥」
上は音符。
【例 7】
「深い」
上は音符。

【例 8】
「浅い」を意味する。
上は
音符。

【例 9】
「病気にかかる」
上は音符。
 
【例 10】
「アナグマ」
口の中のものは音符。
【例 11】
「雑草」
下が音符。
 

以上の用例はいずれも「音符」がないと、他の語と混同されやすい。たとえぱ、[例2]の「音符」がないと、「本を読む」の意味となる。[例10]は「音符」がないと、「豚」の意味となる。

 トンパ文字の構造(3) 
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