トンパ文字を訪ねて(続き)


〜納西(ナシ)族居住地での現地調査から〜
『言語』(大修館)1992年5月号より抜粋

トンパ文字の構造(3)

 【表音文字】

 「表音文字」の主な特徴をみると、形の上では絵画文字であるが、絵と語の意味とがつながらない。即ち、仮借文字、転用字ではあっても、象形文字・会意文字ではない。「納西語」の分かる人以外、解読不能の絵画文字で、「絵画音符」ともいうべきである。もう1つの特徴は「神話」「画家」「マッチ」など新しい、抽象的、心理的な語彙が、特に仮借文字には多い。表音文字としては、特に2音かそれ以上の文字が多い。表意→表意音→表音、といった方向のトンパ文字の変化が推察される。

 これに属する用例を少し挙げてみよう。【例12】から【例15】

 トンパ文字の表意文字、表意音文字の中の名詞を見ると、肉眼で見られる具体的な物を示す名詞が多く、肉眼で見られない抽象的な物を示す名詞は少ない。また、名詞だけではなく、形容詞、動詞や人間の心理・感情など人間関係を示す語彙も乏しい。そのため、「表音」(仮借)の語構成法でその不足を補っている。

【例 12】
「褒める」
【例 13】
「お互いに団結する」
【例 14】
「紙」
【例 15】
「怒る」

 「卵生神話」をめぐって 
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