トンパ文字を訪ねて(続き)


〜納西(ナシ)族居住地での現地調査から〜
『言語』(大修館)1992年5月号より抜粋

数字のシンボリズム

 最後に、納西族の服装に見られる数字のシンボリズムに少し触れてみたい。

 納西族の男性の服はそれほど特徴がないが、女性の服は特徴的である。大半が青色(空を意味する)で、ズボンに前掛けをつける。背中の羊皮製の肩掛けが注目される。この服の裏の構成は月2つ、星7つで全体は「蛙」を表している。古代人の発想、月と蟾蜍(せんじょ=ひきがえる)の組み合わせを思わせる。

 服の裏の「星7つ」はまず「北斗七星」を示すといった可能性があるが、その他、気がついたのはトンパ神話ではよく、7日、7ケ月、7年と「7」を使用すること、また、神話ではよく「女性」は7、男性は9の数字を示すこと(『創世記』の東巴経典にもある)。今でも病人が死ぬと、口の中に男性は9粒の米、女性は7粒の米を入れる風習がある。また7椀の水で女性の死体を洗う風習がある。9は陽性を示し、7は陰性を示すのではないかと思う。

 「蛙」については納西の神話に出てくる蛙はよく物事を知らせる役目を果たす。洪水の前に兄弟たちに知らせたのも蛙だった。これと似た日本の神話伝説に太陽が射られる前に、太陽に知らせたという蛙の伝承がある。一種の霊物である蛙の皮を被ると、異界の存在に変身できるという日本の神話観念と同じものが納西族の神話にもある。

 このように女性の服については、蛙トーテム、日月崇拝 及び陰を示す「7」など、様々なシンボリズムが見られる。

 トンパ文字については残る課題が多いと思う。音符になる条件、形容詞・動詞・名詞の特徴、類義語・派生語の特徴、トンパ文字とチベットのボン教の関係、トンパ文字の語構成原理と漢字の「六書」との相違については別稿で述べることとしたい。


 トンパ文字の新たな動き 
topへ