中国雲南岩面画の特徴
〜調査報告1〜

抄録−中国の南西部にある雲南省には岩面画(塗彩画)が30カ所以上発見されている。私の調査した金沙江「補此里山(プツリサン)岩面画」は人物が登場していない。野生動物が中心だが、矢を体に受けた野生動物の絵はない。私の仮説だが、雲南金沙江周辺の岩面画が雲南の蒼山岩面画、滄源岩面画、麻栗坡岩面画よりも古く、それが西北から南へ雲南の各地に広がっていったのではないかと思われる。雲南各地で発見された岩面画は同一の時代に成立したものではないが、中国南方の最も代表的な原始芸術の遺物である。

Summary−在位於中国西南部的雲南省,発現了30多処的岩画群。在我所調査的補此里山岩画群中未曾発現過人物,以野生動物為主。岩画中也没有発現過被箭射中的野生動物。 我的一個假説(観点)是雲南金沙江周囲的岩画(雲南西北部)要比蒼山岩画、滄源岩画、麻栗坡岩画古老。従雲南的西北部為起点,然後延向到雲南的南部及雲南各地。雲南各地発現的岩画不是同一時代之物,但都是中国南方最有代表性的原始藝術的遺物。

「少数民族のメッカ」雲南省

 雲南省の人口は4200万人、中国の南西部に位置している。「少数民族のメッカ」とも言われるほど、多民族の省である。51種の民族が居住しているが、主たる民族は26ある。面積はほぼ日本の総面積に匹敵する。

 南はラオス、ベトナム、西はミャンマーに隣接している。東は中国の貴州、広西、北は中国の四川、チベットとつながっている。

 高床式建物、お歯黒、貫頭衣、神話、歌垣、納豆、天麩羅、げた、畳、仮面、鮒すし、赤飯、懸魚など日本の風俗習憤や文化と共通するものが多い。また一部の少数民族の言葉に日本語と同じ発音をしているものが見られる。日中文化比較研究の注目された地域である。

 5年前、私は揚子江上流の金沙江岩面画を調査した。その地域はチベットに近い、ナシ族の居住地である。雲南省の西北部に位置し、その中心地は「麗江」であり、2年前には世界文化遺産リストにも登録されている。

 アメリカの小説家ジェームス・ヒルトンが著書「失われた地平線」の中で、シャングリラ(桃源郷)と呼んでいるモデルの場所である。

 植物豊富なシーサンパンナにしても、大理や麗江にしても80年代は「秘境」と呼ばれ、交通はとても不便だった。現在では関西国際空港から昆明への直行便があり、昆明から雲南各地へも飛行機ですぐ行ける。この20年の変貌ぶりには目を見はるものがある。

 1999年、中国の最初の世界博覧会「園芸博覧会」(花博)も昆明で開催され、ますます世界の注目を受けるようになった。地元の国際旅行社によれば、一部の日本人観光客は私の書いた『中国雲南岩絵の謎』(祥伝社)の本を持ってガイドさんに「ぜひともこの目で見たい」と案内を頼む人も多いそうだ。残念ながら岩面画はいずれも険しい山の頂上にあり、普通の観光客にはそう簡単には行ける場所ではない。 次に雲南の岩面画を紹介する。