中国雲南岩面画の特徴
調査報告2

金沙江岩画面の調査

 1995年4月上旬、ナシ族の農民、広睦さんから、彼の住む鳴音郷東聯村という村に岩面画らしき絵があるという情報を得た。村の人以外、知っている人はまだいない。

 現地の方のご協力で、麗江からさらに北へ180キロの山まで、車や徒歩でたどり着いた。猛暑で8時問の険しい山道の徒歩は大変だった。村の裏山の山肌は人の進入を拒むかのように傾斜度は70度も80度もあるかと思われる。山の麓から頂上までたどり着いた時には5時間もかかった。絵の所在地は海抜2100メートル、「補此里山(プツリサン)」という山の頂上近くにある。見下ろすと約600メートル下に金沙江が見える(図1)

 
図 1
 

図 2

 絵の描かれた岩陰は幅約5メートル、高さ約3メートル、奥行きは3メートル、そのうち2メートルは洞内、即ち1メートルが外に出ている。

 左から右へ:1番の絵は野牛らしき動物、2番は群をなす尾のない猿(図2)、3番は上は耳の大きなヤギ亜科の野生動物、下ははっきり見えない。重ね描 きの絵、4番は水流の侵食で判別困難だが、野牛のように見える。

 よく観察すると、1番と2番、3番と4番の動物像は向かい合って構成されていることに気がついた。

 プツリサン岩面画の特徴は、人物が登場していないことだ。また、矢を体に受けた野生動物の絵はない(通説としては、野生動物の岩面画は人物の絵より古いとされている。また、矢が刺さった野生動物より、矢のない野生動物のほうがもっと古いとされている)。

 プツリサン岩面画以外では、金沙江周辺の岩面画のなかで矢を受けた野生動物の絵が全然ないというわけではない。一部は発見されている。しかし、現在発見されたもののなかで、矢を受けた野生動物の絵は極めて少なく、また人物の登場はほとんどない。動物の絵は植物の絵より多い・草食動物のヤギ、シカ、牛が中心である。魚類はほとんど見られない。描法としては、線描と平塗りの両方が見られるが、赤色でその輸郭を描く絵が大多数である。

 金沙江周辺の岩面画はプツリサン岩面画のほかに・宝山郷花依村のハェンサンカメンカ岩面画、音彼若(インビロ)岩面画、虎跳峡岩面画などおよそ30カ所以上もあり、まさしく岩面画の宝庫である。

 ハェンサンカメンカ岩面画は洞窟の中にある。18平方メートルもある巨大な絵で、一番大きな野牛の絵は長さ3メートル、高さは1.6メートル。小さい動物は10センチのものもある。

 図3は腹の大きいヤギ亜科の野生動物。妊娠中かもしれない。

 インビロ岩面画(図4)はいくつかの動物が重ねて描かれたもの、装飾性に富む「獣形交錯会」である。  図5もインビロ岩面画でなんとも言えないユーモラスな絵。イノシシにも見えるし、サイにも見える。さらに口や尾はサイで、体は象のようにも見える。愉快な絵だ。

図 3

 
 

図 4

 
   
図 5

写真提供:彭飛、和力民、和慶元、張楠、楊天佑

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